プロダクトを作りたくて起業したのに、いまは受託をしている
1年半前、プロダクトを作りたくて会社を立ち上げた。現在、その会社の売上の中心は受託だ。 この記事では、なぜそうなったのか、受託を通じて何が見えるようになったのかを書く。 起業の成功談でも、受託への転向を正当化する話でもない。 まだプロダクト企業を目指している途中の記録である。 最初の1年で、売上は作れなかった 1年半前の大学生の頃、自分たちのプロダクトを作るために小さなAI企業を立ち上げた。 情報系の大学で学んでいたこともあり、技術にはある程度自信があった。 AIを使えば、資金のない少人数の会社でもソフトウェアのプロダクトは作れる。 実際に動くものを作り、ユーザーに使ってもらうところまでは、できた。 会社を作った最初の1年は、ほとんどの時間を開発に使った。 作りたいものを作り、改善し、使ってもらう。 反応があると、少しずつ事業になっているような気もした。 しかし結局のところ、会社を維持できるほどの売上は作れなかった。 一時期、銀行の口座残高は3,639円になったこともある。 誰が使うのかは何となく分かっていても、誰がその費用を払うのかは曖昧だった。 どの問題を、いくらで解決するのかも決めきれていなかった。 プロダクトを作ることと、プロダクトを売ることは、かなり違う。 今から考えれば当たり前だが、当時は作ることに意識が偏っていた。 使ってくれる人がいれば、その延長線上に売上もあるように感じていた。 現実には、利用者がいても、お金を払う人がいなければ事業にはならない。 そうしているうちに、開発を続けるための資金もなくなった。 あまりに生々しい圧倒的な現実のため、ここには書けないが、 資金の他にも、人間の地獄を見た。 そして、この地獄は、まだ序の口のように感じている。 会社を続けるために、受託を始めた 今年から、会社を続けるために受託の仕事を始めた。 企業向けの技術支援だ。 受託によって、最初の1年よりも会社を維持するための資金を確保しやすくなった。 とはいえ、プロダクト企業になれたわけではない。 売上の中心は受託だ。 案件を受注し、顧客ごとに必要なものを考え、開発や支援を行い、その対価を受け取る。 同じものを複数の顧客に継続して販売する仕組みは、まだ作れていない。 プロダクトを作るために会社を始めた。 そのプロダクトでは売上を作れず、会社を維持するために受託を始めた。 そして今は、受託を続けながら、もう一度プロダクトを作ろうとしている。 技術として動くことの他にも、大事な部分がある 受託を始めて良かったことの一つは、技術と現場との距離が縮まったことだ。 大学にいた頃は、技術的に何ができるかを考えることが中心だった。 受託では、まず顧客が何に困っているのかを聞く。 そのうえで、何を作るのか、いくらで引き受けるのか、いつまでに完成させるのかを決める。 学生が立ち上げた小さな会社でも、顧客の問題を解決できれば、さまざまな組織と仕事をする機会はある。 少なくとも私が関わった案件では、年齢や経歴だけで判断されることはなかった。 課題を理解しているか、提案に納得感があるか、本当に実行できそうか。見られていたのはそういう点だった。 一方で、技術として動くものを作れても、実際に導入されるとは限らない。 精度の高いモデルを作る。応答速度を改善する。デモを問題なく動かす。 開発側から見れば、それだけでもかなり大変だ。 しかし顧客は、それで導入を決める訳ではない。 導入によって何時間の業務を減らせるのか。 既存のシステムと安全に接続できるのか。 担当者が変わっても運用を続けられるのか。 費用をかけるだけの効果があるのか。 技術以外にも、決めなければならないことがいくつもある。 コードが正しく動くだけでは足りない。 その技術によって業務がどう変わり、導入する側がどのような責任を負うのかまで考える必要がある。 これは、プロダクトだけを作っていた最初の1年には、ほとんど見えていなかった。 コードを書かない時間が増えた 受託を始めると、技術以外の仕事も増える。 顧客との打ち合わせ、営業、見積もり、契約、納期の管理、請求、入金確認、会計、資金繰り。 協力者に仕事を頼む場合は、役割や報酬、成果物についても決めなければならない。 会社を始める前に想像していたより、コードを書かない時間はかなり多くなった。 情報系の人が全員、こうした仕事を経験した方がよいとは思わない。 企業や研究機関で技術に集中し、専門性を深める進路もある。 仕事とは別に、OSSや個人開発を続けることもできる。 起業とは異なる形で技術を追求する道は、いくつもある。 私の場合は、自分たちのプロダクトを事業として提供したいと考えたため、技術以外の部分にも関わる必要があった。 AIによって、資料作成や調査、契約書の確認などは以前より進めやすくなった。 それでも、誰の問題を扱うのか、いくらで引き受けるのか、どこまで責任を持つのかは、自分で判断するしかない。 会社を作るのは簡単でも、やめるのは簡単ではなかった 会社を作って半年ほど経った頃、真剣に、一度やめようと考えたことがある。 売上がほとんどなく、開発を続ける資金もなかった。 このまま続けるより畳んだ方がよいのではないかと思い、会社を終わらせる方法を調べた。...